4月の甲斐駒ヶ岳

 4月22日、昨晩晩く着いた竹宇駒ヶ岳神社(標高770m)の駐車場に止めた車で仮眠し4時半に起きる。5時40分出発、今日の長い登りを覚悟しスローペースで歩きだした。神社の手前の崖の上からニホンカモシカ君が朝のご挨拶だ。彼もまだ眠そうな表情?

ニホンカモシカ君の朝のご挨拶

神社の裏手の尾白川にかかるつり橋を渡っていよいよ登りだ。天候は予報通り、曇り、気温は低気圧の接近に伴う南からの暖気で思った程低くない。今回の同行者K氏とこの大震災で被災した共通の友人らの消息を語り合いながら歩を進める。

尾白川のつり橋を渡って黒戸尾根へ

駒ヶ岳は信仰の山、江戸期からの長年にわたる信者達の石碑が登山道にそって点在する。静かな霧の中で時々出合うこれらの石碑に担ぎ上げた人々を想うと疲れも一時忘れる。信仰の山もいいものだ。
霧の中の石碑

横手駒ヶ岳神社からの道が左から合流したあと、長い八丁登りの途中、標高1600mあたりから積雪を踏む。一部凍結していて歩きずらい。刀渡りは雪もなく鎖がしっかり固定されていて危なげがない。急な鎖場を登ると刀利天狗(標高2049m)に着く。小さな祠が二つ並んで鎮座している。

刀利天狗

黒戸山(標高2253m)を右に巻いて黒戸尾根中唯一のくだりを下り13時五合目小屋跡に着く。主として長く小屋を経営した古屋氏も今はなく4年前に解体されて今は更地となっている。小屋跡からは正面の屏風岩に向かって急なはしごが続くが、しっかり改修されており安心だ。

屏風岩に掛るはしご

屏風岩あたりから小雪が舞う。慎重な動作が求められるはしごを登り14時50分今日の目的地、七丈小屋(標高2380m)に着いた。駒ヶ岳神社から標高差1600m、9時間余、疲れたが静かないい尾根だ。小屋のオヤジさんは無愛想ではあるが実に行き届いた対応をしてくれる。最近の山小屋では珍しく好感が持てる。相当な山の経験者と見たが本人は何も語らない。寝具を借りて熟睡できた。

4月23日、小雪。視界100m程。4時起床、5時出発。8合目のご来迎場の鳥居は崩壊している。冬期の強烈な風雪には耐えられなかったのだろうか。
八合目の鳥居跡

八合目の上部で5,6m程であるが微妙なバランスの岩場でロープを出す。帰途は懸垂下降で降りた。小屋のオヤジさんによると昨年この付近で2件ほど滑落事故が起こったそうだ。急な雪面の登りが続くがピッケルを深く差しアイゼンを十分効かせるので不安はない。ハシゴや鎖の上に雪がまだしっかり付いているので雪が消えた後の夏は感じが随分違うであろうと推測される。ライチョウが「ガラガラ」とかわいくはないが愛想のある鳴声で鳴く。

頂上直下の垂壁(大武川側)

8時50分頂上に着く。標高2967m、東側の大武川側から風が弱いが当るとやはり寒い。北側の尾白川側に行くと風下で快適だ。軽い昼食を取る。残念ながら小雪まじりで視界は利かない。晴れていれば鳳凰、北岳、仙丈と南アルプスの主稜を恣にできるのに今はガスの中だ。

甲斐駒ヶ岳山頂にて

頂上の案内標識

120年前(明治24年)に設置の一等三角点

9時20分頂上を後にする。急な雪の斜面を慎重にクライムダウンする。一か所懸垂下降、右も左もスリップすれば止まらない。

急斜面の雪面を慎重にクライムダウン

11時再び七丈小屋へ、小屋のあたりから霙模様となる。小屋のオヤジさんがストーブを付けて温めてくれていた。雨天用に服装と装備を整え温まった後、霙の中を下山開始。急なはしごは結構神経を使う。五合目の小屋跡の左側はアイスクライミングのスポット、黄蓮谷だ。厳冬期はにぎわうのだろう。今は人の気配はない。
刀渡り

下山道は再凍結した雪で歩きずらい。K氏はアイゼンを付けてまま、こちらはアイゼンなしで下る。間断のない雨で下着に直接アウターを着ただけでは止まって休息するとさすがに寒い。中に毛のシャツでも着ると今度は熱い、温度調節が難しい。歩いて温めるのが最も実戦的なようだ。

 雨の中を下る

粥餅石あたりから時々樹木の表皮が1.5mの高さくらいまで剥がされているのを見かける。熊野の仕業に違いない。17時やっと竹宇駒ヶ岳神社に着く。今朝5時からの12時間行動、さすがに疲れる。泥だらけになった靴とオーバーパンツを水道水で洗い、無人売店の軒先で着替えるとやっと人心地ついた。
それにしても高度差2200mの黒戸尾根、信仰の山、甲斐駒ヶ岳への正式な登山路としての風格は十分。静かで心が洗われるような2日間であった。  おしまい。

















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